この記事はネタバレを含みます。
※僕は雑誌を読まないので2巻終了時点以降の話をまったく知らない。なので的外れなことを書いている可能性もあり。
「東独にいた」とはどんなマンガなのか
舞台は冷戦時代!それだけで熱い!🔥
歴史マンガと言うと古い時代を扱った作品が多いが、本作はわりと最近である冷戦下の東ドイツが舞台。
マンガにしたら面白いネタがたくさんありそうな時代だが、この時代を扱った作品はこれまであまり見たことがない。もうこれだけで即買いの価値あり。
あらすじ:冷戦時代の東ドイツで東西統一を目指して活動するレジスタンス(フライハイト)と、それを阻止する軍特殊部隊(MSG)の戦いを描く本格歴史SFアクション。
主要登場人物である特殊部隊やレジスタンス組織は架空のフィクション。しかし類似組織は実在していたのではないかと思う。
その他ホーエンシェーンハウゼン、社会主義統一党、シュタージ(秘密警察)等の地名や組織名は史実に基づいている。
内容が濃くスピーディーなストーリー展開。歴史好き以外の人でももちろん楽しめる。
📜読む前に時代背景を知ろう
「東独にいた」は東ドイツの社会主義政権を倒し東西ドイツ統一実現を目指すレジスタンスと、それを阻止する軍特殊部隊(MSG)の戦いを描く作品である。
登場人物の考えや行動について理解を深め、作品をより一層楽しむには当時の時代背景をある程度知っておいた方が良い。
1985年前後の東欧
「東独にいた」1巻開始時の年代設定は1985年。1980年代は物資不足や自由の制限などから民衆の不満が高まり東欧で民主化運動が本格化しつつあった時代。80年代前半からポーランドでは大規模集会やストライキ、ハンガリーでは複数候補による選挙なども行われていた。
ソ連の妨害で東欧諸国の民主化運動は一進一退だったが1985年3月11日に改革派のゴルバチョフがソ連共産党書記長に就任して状況が一変。当初はゴルバチョフも社会主義体制のまま改革を目指していたが思うように進まず結局民主化推進に舵を切った。
当時の東ドイツ
分断国家の東ドイツは東西統一を果たすと国家消滅が確定していたため他東欧諸国とは異なり強硬路線を貫き国民への締め付けは続く。
しかし西ドイツとの経済格差は広がる一方で国民の不満は高まる。民主化が進み西側諸国との国境を開放したハンガリーを経由して国民が大量に西ドイツに脱走。その他にも大規模反政府デモなども起こり、最後まで強硬路線を貫いた東ドイツでも民主化の動きを止めることはもはや不可能となった。
👨👩主要登場人物と組織
2巻終了時点での主要登場人物。レジスタンス組織フライハイトと特殊部隊MSGのメンバー。
- フライハイト(組織):政府を倒し東西ドイツ統一を目指すレジスタンス。
- MSG(組織):超人的な戦闘力を持つ隊員で構成される軍特殊部隊。
- ユキロウ:フライハイト指導者「フレンダ―(見知らぬ人)」の正体で日本人。小さな本屋の店主で客として来店するアナベルと交流がある。
- アナベル:MSG隊員:ユキロウには当初軍人であることを隠していた。女性。
- クロード:MSG隊員:アナベルとは古くからのつきあい。
- イシドロ:MSG隊員:戦闘に加え尋問も得意な頭脳派。フライハイトの動きが活発化になったため国外から呼び戻された。
⚔️フライハイト対MSG
1巻と2巻のフライハイトとMSGの動きをおおまかに書くと以下の通り。
1巻:フライハイトが活発に動く
1巻では見せしめのため議員誘拐や政府関連施設爆破などフライハイトが攻勢をかける。爆破テロではアナベルの両親が犠牲になる。
MSG側は議員奪還作戦で現場にいたフライハイトメンバーをアナベルが全滅させ、さらに彼女に夜討ちをかけたフライハイトメンバーを返り討ちにし数人が殺され一人が生け捕りになる。
2巻:先手を打つMSG
2巻はMSGが主導権を握る展開。MSGはユキロウがフレンダ―だと睨みシュタージと協力してユキロウの本屋に盗聴器をしかけたり近隣住民を使って嫌がらせをするなど揺さぶりをかける。
その後ユキロウは容疑が明らかにされないまま拘束され政治犯を専門に収容するホーエンシェーンハウゼン刑務所に連行される。
ユキロウ奪還作戦を決行したフライハイトとMSGとの戦いでユキロウとアナベルは予想外に鉢合わせ。ここで2巻は終了。めちゃくちゃ先が気になる終わり方なのである!
🖊️東独にいたを読んだ感想
MSGのメンバーは必要とあらば躊躇なく人を殺す戦闘員ではあるが、感情のない殺人マシンではない。主要登場人物について考えてみたい。
アナベル
1巻はアナベル主体でストーリーが展開される。
東ドイツで戦争兵器として生きる女の子が書店員の男に恋をしている話① pic.twitter.com/MPhdWkD3A4
— 宮下暁@第②巻 発売しました『東独にいた』 (@SoR0MDfymud4xR9) December 19, 2019
アナベルはMSG隊員だがユキロウに対して恋愛感情がある。彼の本屋を訪れる際には任務時とは異なり女性らしく化粧やおしゃれをし、ユキロウを映画に誘い二人で食事にも出かけた。
揺れ動くアナベルの感情
1巻前半でアナはユキロウに対して自分は軍人で人を殺したこともあるが、国のために自分がやってきたことが間違っているかもしれないと思うことが何度もあったと明かす。
だが親に見捨てられた自分を実の子のように育ててくれた養父母が爆破テロの犠牲になったこともあり、最終的には国を守るためにフライハイトと戦うことを改めて決意。
さらにアナベルはMSGの会議でユキロウがフライハイトの工作員である可能性が高いことを知る。ユキロウに対して恋愛感情を持つアナベルの揺れ動く心理が今後どう描かれるのか非常に楽しみである。
イシドロ
2巻のキーパーソンであるイシドロは、弱者を食いつぶす資本主義とも恐怖政治で国民から自由を奪うソ連型社会主義とも異なる新しい社会主義を東ドイツで実現しなければならないと考えている。
【漫画と映画⑦】
小津安二郎映画の特徴の一つが正面画とその切り返しです。本来この手法は映画のお約束を無視したものです。空間的に2人の位置関係がわからないからです。
でも一度はマネしてみたいと思ってました。正面画は個人的に好きですし、顔面の情報量も多いし、心理学的にドキッとしますし pic.twitter.com/0LPGmttjqJ
— 宮下暁@第②巻 発売しました『東独にいた』 (@SoR0MDfymud4xR9) December 12, 2019
自ら尋問したユキロウがフレンダ―である可能性が高いと感じたにも拘わらず、証拠がないためこれ以上身柄拘束すべきではないと判断。クロードはそれに強く反対。
イシドロはフルネームがイシドロ・ガルシアで褐色の肌。1960年までキューバにいたとのことなので典型的なドイツ系白人ではないと思われる。
キューバ革命で民衆の情熱を肌で感じた?
キューバ革命が結末を迎えたのが1959年なので60年までキューバにいたイシドロは幼少時に革命を現地で体験している。
イシドロがキューバ人にせよドイツ人にせよ革命の熱気を肌で感じたことから民衆の情熱を止めることはできないとの思いが誰よりも強いのではなかろうか。
とにかくイシドロは監視社会の共産主義体制においても独自の正義感を持ち、盲目的に上官の命令に従うタイプではないのである。
ユキロウの過去も非常に気になる
ユキロウは作品を読む限り日独ハーフではなく日本人のようである。
あと、2日です! pic.twitter.com/yafAolQM9f
— 宮下暁@第②巻 発売しました『東独にいた』 (@SoR0MDfymud4xR9) December 18, 2019
ユキロウはフライハイトのノアゾン作戦部長の父親(おそらく聖職者)に17年前に引き取られた。当時10歳~15歳ぐらいに見えるが、ノアゾンによるとそれまでの彼については何も情報がなく正体不明とのこと。つかみどころのない謎多き男でノアゾンの父親により「フレンダ―(見知らぬ人)」というコードネームが与えられた。
ユキロウの真の姿とはなんなのか
ユキロウは「MSGと同じ能力を持つ」「世界一の諜報員と評される」と評価されることから過去に何らかの訓練を受けている可能性が高い。それは10歳以前のことなのか10歳から現在までのことなのかまだ描かれていないのでわからない。
僕は日本人ユキロウが東ドイツにいる理由、どのように暮らしていたのか、フライハイトのリーダーになった経緯などが特に気になる。ユキロウの過去はストーリー上重要な要素だと思うので今後ある程度のボリュームで描かれればありがたい。
💡MSGは今後どうなる
東西ドイツ統一が実現するのは歴史的に確定しているのだが、そこに至る過程でMSGの各メンバーがどのような行動をとるのかに僕は非常に興味がある。
MSGは精鋭部隊なので戦闘力以上に的確な状況判断能力も持ち合わせているだろう。なので自分の正義に背く任務には疑問を持つメンバーもいるはず。
状況次第で民衆のために立ち上がるメンバーが出てきてもおかしくない。
正義は曲げられない?
僕はこれまで軍がテーマの作品をかなり見た。軍では命令は絶対のはずだが、自らの信念に反する任務に対して疑問を抱く兵士が必ずいる。どの作品でも同様のシーンが描かれるのでおそらく現実でもそうなのだろう。
普通の会社でも上司の指示に背きたくなることはあるのだが、軍人の場合は人の命に係わる任務が多いため責任は大きい。例えばテロリストのアジトを急襲して女子供も殺すよう命じられたができなかったなど。
民主化運動が活発化する1980年代
東独にいたの舞台である1980年代は東欧諸国で民主化運動が急速に活発化した時代でMSGメンバーも当然その動きを把握している。
少なくともイシドロは現在の恐怖政治は大きく方針転換すべきだと考えているのだから、ほかにも現体制に対して批判的なメンバーがいても不思議ではない。
MSGメンバーは戦闘員として過酷な訓練を受けているが冷酷に民衆を始末できる人間ではないと思う。
🔥国民のために戦う?
革命をテーマにした作品では体制派の人間が、弱者である民衆側に味方するのは定番であり多くの読者が期待する展開だと思う。
フランス革命を描いた名作「ベルサイユのばら」では貴族の娘(実質男扱い)で王妃マリー・アントワネットの護衛を務めるオスカルは立場的にはガチガチの体制派。
だが民衆の苦しみを目の当たりにしてから体制を離れ彼らと共に戦うことを決意。そしてバスティーユ襲撃で戦死した。
ドイツ史実でも1989年11月9日ベルリンで検問所に押し寄せた群衆を抑えきれず、ハラルト・イエーガー司令官が命令を無視して検問所を開放。その後まもなくベルリンの壁は崩壊。
MSGの動きが楽しみ
イシドロの発言からもわかる通りMSGも現体制が国民にとって最善だと考えているわけではない。
国民の窮状を救うためになんらかの形で彼らに加勢するメンバーも出てくるのではなかろうか。そしてメンバー同士の考え方の違いから軋轢が生まれMSGが分裂して対峙する展開もあるかも。
テロリスト扱いしているフライハイトと手を組むかどうかはわからないが、もし一部メンバーだけでもMSGが国民と共に戦うことを決意するとしたら、その要因となるエピソードも描かれれば嬉しい。
例えばフライハイトが政府や軍上層部の陰謀や腐敗を暴きMSGに動揺が広がるとか。フライハイトも頭脳派が多いから武力以外に情報戦をしかけてもおかしくない。
ボスキャラ登場?
冒頭にも書いた通り僕は連載を読んでいないので2巻終了時点より後の話はまったく知らないのだが、作者宮下暁氏のツイートを見るとMSG創設者というボスキャラっぽい女性が出てくるようだ。
彼女は絵を見る限り民衆の味方には見えない感じ。いずれにせよ今後重要な役割を演じるのは間違いなさそう。
この女ボスが作中の東ドイツを牛耳る黒幕だとしたら、MSGが女ボス派と民衆派に分かれて戦いを繰り広げる展開もありかも。民衆派はフライハイトと共闘する可能性もあるのではないか。
本日発売のヤングマガジンサードに東独にいた第14話が掲載されております、よろしければご覧ください! pic.twitter.com/H0EhEVFSin
— 宮下暁@第②巻 発売しました『東独にいた』 (@SoR0MDfymud4xR9) July 5, 2020
3巻以降はどうなる?
強敵が登場してもフライハイトは揺るぎない決意でこれまで以上に激しく闘争を繰り広げるだろう。フライハイトはドイツ語で「自由」を意味する言葉。易々と諦められるものではない。
一方MSGはアナベル、イシドロ、クロードを中心にメンバーがどのような動きを見せるのかが非常に気になる。
👀今後も展開から目が離せない
アクションのみならず人間ドラマを含めたストーリーは今後ますます目を離せない展開になっていくと予想。
だが本作はフィクションなので東西ドイツ統一までの過程を単純に史実を元に感動的に描くわけではないだろう。
予想外の独自SF展開もあるかも!むしろそれが見たい!
勝手に想像していろいろ書いてしまったが、とりあえず3巻が出るのを首を長くして待つことにする。
マンガ好きなら誰にでもおすすめ!巻数が少ない今のうちに手に取ろう!
東独にいた(ヤングマガジンコミックス)
宮下暁 (著)
東ドイツに生きた人々を描く本格派歴史劇
第1巻の内容紹介: ベルリンの壁で一つの国が真っ二つに裂かれた世界。東ドイツ。社会主義が支配するその国に住むアナベルは、古本屋を営む青年・ユキロウに密かな恋心を抱いていた。そして、国家の陰謀が絡む明かせない秘密を。時代が、思想が、抗争が、二人を別つ壁となる――。
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